ルミフロン
表紙

21世紀の土木は、新設構造物が減少し、既存構造物の維持管理へと大きく比重が移る。限られた予算で、土木構造物の長寿命化を図るためには、ライフサイクルコストの視点に基づき、適切な維持管理システムと、計画的な補修・補強の手法を早期に確立させる必要がある。そんな課題に直面するなか、11月14日、東京・大手町の日経ホールで、超耐候性塗料用フッ素樹脂「ルミフロン」(旭硝子)の発売20周年を記念して「日経BP建設セミナー2001/環境時代の再生プログラム―建築・都市・土木」(主催/日経BP産業情報開発センター、協賛/旭硝子、大日本塗料、トウペ、旭硝子コートアンドレジン、中国塗料、スズカファイン、水谷ペイント)が開催された。長寿命化に向けて、コンクリート構造物の維持管理・補修補強技術や、鋼製橋梁の塗装はどうあるべきなのか。最先端の研究に取り組む4人のキーパーソンが、説得力のある講演を展開した。
会場
講演1 魚本氏
維持管理手法の確立は不可欠 新たな劣化問題には早期対応を
魚本 健人 東京大学生産技術研究所 都市基盤安全工学国際研究センター長
 コンクリート構造物の劣化に伴う問題が社会的に注目されています。最近起きた一連の事故から明らかになったのは、トンネルのライニングのはく離や、高架橋のコンクリートの落下は、構造物全体として見た場合には大きな問題はないが、社会に与えた不安は非常に大きいということでした。
 では、コンクリート構造物は本当に大丈夫なのか。日本のコンクリート構造物の劣化問題は、1970年ごろまでは疲労や凍結融解、磨耗などが対象でした。そして、それ以降に、骨材の海砂、海水飛沫、アルカリ骨材反応、中性化、酸性雨といった問題が次々と加わってきました。
 現在、こうした劣化問題には3つの課題があります。1.未解決の問題が残っている、2.これまで問題視されなかった新しい問題が発生する可能性がある、3.問題の対策を講じるまでに時間がかかる、という3点です。
 未解決の問題としては、耐薬品性や塩分腐食対策などがあります。下水道処理施設では、バクテリアや発生した酸がコンクリートを侵したり、鉄筋を腐食させるといった問題が浮上しています。また、スパイクタイヤの使用禁止に伴って、道路に大量に撒かれるようになった融氷剤の対策は、今後大きな問題として持ち上がってくるはずです。まだこれらの問題に本格的な対策は練られていませんが、早く対処しなければならない重要な問題だと言えます。
 こうした新しい問題が指摘されると、必ず肯定論と否定論が出てきて、なかなか実務的な対策にたどり着かないというもう一つの問題がありますが、これからは手遅れになる前に早く手を打つべきだと思います。
予測も含めた適正な補修補強で 増大する維持管理を効率的に
 実際の維持管理で大切なのは、定期検査をして、必要に応じて詳細検査を実施し、適正な補修補強の判断を下すことにあります。
 しかし、現在の目視が主体の検査では、人によって判断のばらつきが出ますし、構造物の表面の情報しか得られないという問題も抱えています。
 そこで最近は、非破壊検査を取り入れるケースが増えていますが、土木学会でもJISでも、その測定方法はまだ定まっていません。誰でも同じ客観的なデータが出せる手法が早く構築されることが求められます。
 ところで、点検によって劣化の状態は分かりますが、それをもとにした評価を適切に行うためには、「劣化の予測」も欠かせません。現在の変状の特長から劣化のメカニズムを推定し、今後の劣化の進み方を予測する。現状と、将来の予測の双方を考慮することで、どんな補修補強をすれば要求性能が満たさせるのかという判断が求められます。そのためには、定量的な予測モデルをつくる必要もあります。
 また、補修補強を計画する際には、その後の再劣化も勘案するべきでしょう。再補修や再補強は、いつ必要になるのかという予測のもとに、補修補強を実施するという計画性を、維持管理のなかに織り込ように心がけるべきです。
 今後、構造物の新設は次第に減って、維持管理の比重はどんどん大きくなっていきます。次世代の人たちは、いままでとは比べ物にならない数の構造物を、より少ない人材と費用で維持管理していかなければなりません。
 それだけに、新設の構造物は、とくに耐久性を重視してつくるべきです。既存構造物には、より効率的な維持管理システムの確立が重要になってきます。そのためには、耐久性に関する共通のデータベースを構築して、官民を問わずデータを公表し、相互に活用できるようなシステムを整備する必要もあるでしょう。
 社会一般に対しても、維持管理の重要性というものをきちんと認識してもらうための教育も大切になってくるでしょう。
 こうした維持管理に関する一連のシステムを早く確立することが、これからの社会に要求されているのだと思います。
講演2 筑摩氏
鉄筋腐食の進展期を前に対策 維持管理標準を設けて体制を整備
筑摩 栄 東海旅客鉄道 新幹線鉄道事業本部 施設部 工事課長
 東海道新幹線の鉄筋コンクリート構造物の現状と評価、維持管理の考え方、今後の課題になどについてお話をさせていただきます。
 東京と新大阪を結ぶ東海道新幹線は1964年10月に開通しました。全線の延長は516kmで、そのうち鉄筋コンクリート製ラーメン高架橋は、約23%にあたる118kmあります。高架橋の基本構造は、8本の柱がある24mのスパンを1セットとしています。
 ラーメン高架橋については、10年ほど前から本格的な材料劣化調査を実施してきました。はね出しスラブ、梁、中央スラブなどの各部位の平均的なコアを抜き取り、中性化の深さや塩分量について調査をしました。
 当時の設計は、スラブ鉄筋の最少かぶりは25mmでつくられています。調査の結果、鉄筋かぶりは25mm以上あり、建設当初概ね良好な施工がされたと判断しています。
 95年には、約4200カ所ある高架橋の216カ所で中性化の深さを調査しました。深さの平均値は15.1mmで、ほぼ15mmを中心に分布し、概ね岸谷式の予測に近似しており、平均的な高架橋で今後20年弱の経年で鉄筋腐食が進展期に入ると想定されます。
 塩分量がもっとも高かった高架橋は、海から2kmの位置にあり、1m3あたり0.7kgを有していました。
 当時の施工には川砂・川砂利を使っていますから、これは後天的な飛来塩分だと判断しています。また、塩分量は今のところ1m3あたり1.0kgという基準を下回っているので、当面は問題として取り上げなくても大丈夫だと判断しています。
劣化状況から優先順位付け 指標の明確化で耐用年数伸ばす
 こうした調査から東海道新幹線の鉄筋コンクリート構造物は、材料や施工に関しては大きな問題はないという評価をしました。とはいえ、新幹線の社会的な重要性を踏まえれば、中長期的な視点に立った維持管理は欠かせません。中性化の進行がほぼ予測通りに推移していることからも、それに対する予防保全もとらなければなりません。
 JR東海では、1999年7月に「東海道新幹線維持管理標準」を制定しました。その要点は3つあります。
 1.中性化の進行を150年で4o以下に抑える材料規格を設定する。2.検査項目、検査手法、劣化機構、劣化要因、劣化の指標を明確にする。3.従来の表面保護工の耐用年数を最低7年の基準として、2、3倍に向上させるための材料・施工法・施工管理に重点を置く。
 材料の選定にあたっては、高架橋の部位ごとに品質規格を設けています。品質規格でもっとも重視したのは耐候性で、各部位で従来の10倍に相当する3000時間以上の耐候性試験に合格する材料を選んでいます。施工においては、コンクリート表面をブラストによる目荒しを行い、付着性を向上させることが基本です。
 また検査は、2年に一度、全般検査を実施します。98年に全線の4200カ所の高架橋で実施した調査から、ひび割れ、ジャンカ、コールドジョイントといった劣化の因子をもとに、優先順位を付けて精密検査を実施、構造的な劣化の有無、施工条件などの判断をしています。これまでに800セット以上の高架橋で精密調査をし、この2年間で約600セットの施工を終えました。精密検査や施工時検査、施工結果のデータは保存して、今後の維持管理に反映させていきます。
 今後の課題としては、都市部における施工時の配慮としてブラストの低騒音化や、ひび割れ追従性に優れた塗装材の追求とコストの問題、そして現在は目視検査と打音検査が中心の検査を、装置化する必要があるだろうと考えています。
 以上、東海道新幹線の鉄筋コンクリート構造物の維持管理についてお話をさせていただきました。
講演3 本村氏
高速道路の効率的な維持管理に 複数の非破壊点検診断技術を導入
本村 均 日本道路公団試験研究所 交通環境研究部 保全研究室長
 従来の維持管理は、壊れたら補修するという「事後保全」が主体でした。しかし、そこから私たちが学んだのは、「補修コストが意外と高い」という事実でした。
 そこで、高速道路の維持管理も、早期発見・早期治療とでもいうべき「予防保全」にシフトするように考え方が変わってきました。これからは予算も限られてきますから、計画的な保全によって、ライフサイクルコストをミニマムに抑える必要もあると考えています。
 予防保全には、点検診断技術が不可欠です。ヒューマンエラーのない非破壊の点検手法によって、客観的な数値で判断することが重要になります。その場合に欠かせないのが、劣化部の対象範囲を絞り込んでいく点検ツールです。
 そこで今回は、日本道路公団が取り組んでいる点検診断技術について、トンネル、橋梁、のり面に分けてご紹介します。
 まずトンネルですが、その延長は高速道路の開通延長の9%にあたる約600kmあります。上下線で2本と数えると、全国に合計1300本あり、単純に平均すると1本あたり約900mになります。
 ひと口に覆工コンクリートの欠陥と言っても、表面のひび割れ、表層部の浮き剥離などがあります。このうち、ひび割れの検査には「アルゴンレーザー」を採用しています。トンネルの壁面に当てたレーザーの反射光の強弱でひび割れを抽出するものです。
 現在のところ、測定車は時速4kmで走行し、幅5mmのひび割れを抽出する機能を持っていますが、高速道路では速さが求められますから、交通規制の不要な時速50km以上で測定する方向で研究を進めているところです。
 表層部の浮き剥離には、「赤外線画像解析法」を用いています。精度がよく、交通規制も不要で、そして安価であることから採用しました。物質が放出する赤外線の量から、その物質の温度を測るのが、この装置の仕組みです。点検した部位に浮き剥離があると、健全部とは微妙に温度が異なることから劣化部を検出できるというものです。
 この検査法は当初、赤外線撮影日温度に課題がありましたが、日較差が6℃以上ある日であれば撮影ができることが分かりました。
 これまでに長さ1700mのトンネルで検証しましたから、道路公団のトンネルの87%に適用できます。今後は、超長大トンネルの適用に向けて研究を進めていきます。
のり面をリアルタイムに点検し 雨天時の通行規制に正確を期す
 橋梁では、レーザードップラーを用いた「たわみ」の測定で、コンクリート床版の劣化度を診断します。目視を主体とする「ひび割れ密度法」などと比較すると、たわみ量を測り、補強の良し悪しを数値で確認でき、しかも継続して測定すれば劣化の進行状況を追跡できるというメリットがあります。
 のり面については、「航空撮影」による広域の点検と、地滑り性崩壊や、雨による表層崩壊による傾斜計測定といった方法を総合的に取り入れていきます。
 航空撮影にはヘリコプターを使い、カメラの拡大率とノンプリズムメーターの水平距離で、画素の比率によって劣化部の幅や大きさを判定します。
 ひび割れであれば、おおむね1cm以上は判定できます。人による目視点検では、一つののり面の点検に2〜3時間かかっていたところが、この測定では5〜6分で済みます。
 特定した地滑り性の崩壊個所については、加速度センサーを用いた傾斜計で測定します。センサーを孔内に1mごとに設置しておき、センサーが傾斜すれば、その変位が判かるというものです。
 一方、土壌水分の監視は、土壌水分計ADRを使います。誘電率によって直接計測でき、リアルタイムで情報を入手することが可能で、しかもメンテナンスしやすいのがメリットです。雨とともに土壌の水分量は次第に増えるので、一定のレベルに達したら通行止めを実施し、そのレベルを下回ったら解除するという形で利用していきます。
 さて、こうした機器の研究は非常に重要ですが、非破壊検査の機器はあくまで道具です。得られたデータをどう判定し、診断していくのかが実は重要なところです。今後も、さまざまな社会のニーズを察知して、予防保全を進めていきたいと考えています。
講演4 守谷氏
品質管理と維持点検を重視し 重防食塗装で鋼橋の長寿命化を
守屋 進 独立行政法人 土木研究所 新材料チーム
 国土交通省の直轄工事について調査したところ、1986年度から96年度までに全国で603本の鋼橋が架け替えられていました。その理由でもっとも多かったのは、河川改修などに伴う改良工事でした。二番目は、荷重などの機能上の問題によるもの。そして三番目に多かったのが上部工の損傷で73橋ありました。この73橋のうち、3分の2は床版の損傷を原因とする架け替えで、鋼材の腐食によるものが3分の1弱ありました。
 鋼橋に施される塗装には、鋼材を防食するという機能のほか、さまざまな特長を持っています。たとえば、色彩の自由度が高く、景観形成に生かせます。また、部材の大きさや形状の制約を受けずに施工できます。さらに、部材ごとの腐食条件に応じた塗装材の使い分けができたり、キズが付いた個所を簡単に補修できるといった特長も持ち合わせています。
塗装の施工で重要なのは、品質管理です。塗料というのは半製品で、構造物に塗られて塗膜を形成することで初めて防食性や景観性を発揮します。ですから、きちんとした塗膜を得るための品質管理が欠かせないわけです。
 加えて重要なのは、維持点検です。高分子化合物である塗膜は、紫外線や温度、水などの影響で徐々に劣化していくものです。飛来物によってキズが付くこともあります。つまり、適切な時期に全面的に塗り替えることが前提になっているので、その時期を判断するためにも維持点検が必要になります。
 一つの橋梁でも、部材ごとにミクロの腐食条件が異なります。橋梁の外側は紫外線の影響を受け、下面は結露しやすい。下フランジは、風で巻き込まれた融雪剤や飛来塩分が付着しやすい個所です。各部材や劣化の状況に応じて、塗装の対応も変えていく必要があります。
ライフサイクルコストの視点で 新設、既設ともに重防食塗装を
 近年、重防食塗装と呼ばれるものも出てきました。重防食塗装というのは、防食性に優れた防食下地がされ、それを保護するために環境遮断性と耐候性に優れた下塗り、中塗り、上塗りをしたものだと、私は定義しています。下・中・上で機能を分担し、トータルで耐久性に優れた塗装です。上塗りにはフッ素樹脂、ポリウレタンといった種類があります。
東京湾の京浜運河大橋では、17年前に重防食塗装を施工しています。従来の一般塗装ならば、7〜8年で塗り替えをするような環境にある鋼橋ですが、重防食塗装は今も何ら問題は起きていません。すでに、こういう橋は他にもいくつもあります。また、土木研究所が、沖縄・名護市近郊にある暴露試験場で実施した5年間の暴露試験でも、重防食塗装の優位性を確認しています。
 ポリウレタンを使った重防食塗装の耐用年数はおよそ30年、フッ素樹脂ならば約60年になります。あいにくポリウレタンが登場してから20年程度なので実証はされていませんが、さまざまな実験データからすると、それほどこの数字は外れていないと考えられます。
 では、塗装コストはどうなのか。新設の単純桁で、工場製作費に占める塗装コストは、一般塗装が約1割、重防食塗装が約2割になります。材料費と、塗装回数の多さから、重防食塗装はどうしても高くなります。
 しかし今後は、新設の鋼橋では、重防食塗装の採用が最適なのではないかと考えています。建設当初の塗装コストは高くても、ライフサイクルコストは低減されるからです。厳しい海上の環境で20年はもった実績があるので、一般環境ならば50年以上の耐久性は期待できるはずです。従来の塗装が10年前後で繰り返してきた塗り替えを、50年間で4回程度は省くことができるわけです。
 塗り替えの場合も、その後50年60年と供用されるのならば、塗り替え回数を減らして、ライフサイクルコストを下げる重防食塗装に転換するように提案しています。
 塗装はあくまで受け身であって、構造物の機能や要求される寿命に合わせた使い分けができます。適切な品質管理と施工管理のもと、塗装のライフサイクルコストを低減しながら、鋼橋の長寿命化に取り組んでいただければと思います。