ルミフロン
表紙

経済の立て直しや、構造改革とも連動させた都市の再構築を指摘する声が高まっている。世界に通用する強い都市への再生には、必要に応じて法制度の枠をはずすことも視野に入れる必要がある。そんな課題に直面するなか、11月13日、東京・大手町の日経ホールで、超耐候性塗料用フッ素樹脂「ルミフロン」(旭硝子)の発売20周年を記念して「日経BP建設セミナー2001/環境時代の再生プログラム―建築・都市・土木」(主催/日経BP産業情報開発センター、協賛/旭硝子、大日本塗料、トウペ、旭硝子コートアンドレジン、中国塗料、スズカファイン、水谷ペイント)が開催された。都市の再生にはどんな方策をとるべきなのか。魅力と力強さを長く保ち、環境の時代にふさわしい建築や都市を築くにはどんな視点が必要なのか。都市計画、建築、建築材料の分野の4人のキーパーソンが説得力のある講演を展開した。
会場
講演1 伊藤氏
都市再生戦略チームが発足 再開発の仕組みづくりが本格化
伊藤 滋 早稲田大学理工学部 特任教授
 都市基盤整備公団総裁の牧野徹さんが総理大臣補佐官に任命され、今年9月、「都市再生戦略チーム」という組織を発足させました。私が座長を務めています。ここでは「そもそも都市再生とはどうあるべきなのか。そのためにはどんな戦略や仕組みが必要なのか」という議論をしていますが、発足時に次の二つの方針を挙げました。
1.すべての市民が安全で豊かな生活を営める都市環境づくり。
2.都市再生の構造によって、社会と経済の構造改革を実現する。

 二番目のほうは、今、政府が取り組んでいる構造改革に、都市再生という側面から風穴を空ける意味合いもあって、この中にはさらに五つの項目を盛り込んでいます。
・経済を活性化し、金融システムを健全化する。
・国民的貯蓄を優れた都市資産の構築に活用する。
・行政の効率的向上に民間活動を拡大し、新しい都市的雇用を創造する。
・国際的に開かれたビジネスと文化活動の場を提供する。
・市民参加による多様な街づくり運動。
短期間の再生に仕組みを整備 都市犯罪も重点テーマに浮上
 こうした基本的認識のもとに、都市再生戦略チームではこれから半年間ぐらい、制度を変革することに重点を置いた議論をしていこうと考えました。そして、その議論をするのに当たって、都市再生の戦略として6つの具体的な方針をつくりました。
1.社会経済情勢に対応するための緊急措置として、期間と場所を限って思い切った都市整備手法を適用する。
2.大都市において、都市基盤と建築両面の投資を一体で進める戦略プロジェクトを考える。
3.行政手続きの平行処理と改変を行い、その手続きの所要時間を大幅に短縮する。
4.土地の権利の整理に関わる速度の速い住民合意システムと司法的手続きの迅速化。
5.街づくりの専門家を養成し、地域住民やNPOが協力する草の根街づくりを拡大する。
6.テロなど都市型犯罪を防止するソフト、ハード両面からのセキュリティ強化。
 最初の1.で言っているのは、都市再生特区のような場所を設けて、国や主力企業が土地を購入し、都市計画法や建築基準法の集団規定なども適用外にして、3年とか5年に期間を区切り、一気に都市再生をしようということです。
 そして、その再生に当たっては、都市基盤と建築を一体で進めるというのが2.です。道路などの都市基盤も民間が整備して、沿道の土地には必ず建築をつくらせるようにする。これは絶対に成功させなければなりませんから、そのための仕組みを考える必要があります。
 さらに3.として、現状では、課ごとに担当が分かれていて、複雑で時間もかかる開発許可などの行政手続きを、期間を限定して進める特定のプロジェクトについては、迅速に進められる仕組みをつくろうというものです。
 一方、再開発では住民や権利者の合意を得ることも非常に難しく、時間もかかっているので、各方面の専門家が集まって新しい知恵を生み出し、住民に安心感を与えてプロジェクトを進められる体制をつくろうというのが4.です。
 5.にある街づくりの専門家は、現状では圧倒的に不足しています。そこで、高齢者などの社会経験の豊富な人の中から、住民と行政の間をうまく取り持てる“潤滑油”のような人材を育てて、全国で多くの草の根的な街づくりを展開しようというものです。
 最後に、これからの都市で非常に重要なのが6.です。今後、確実に増える犯罪に対して、たとえば建築基準法に防犯設計の情報を盛り込めば、設計での対応なのでコストをかけずに済みます。また、ソフトとして、筋骨隆々の逞しい高齢者などを街に送り込めば、治安を守る一助になるのではないかと考えています。
 このような感じで、都市再生の戦略について今、一生懸命やっていますので、これからもご支援をいただければと思います。
講演2 梅沢氏
国家的戦略の都市開発で 世界的な経済の機関システムを
梅澤 忠雄 梅澤忠雄都市計画設計事務所 都市開発プロデューサー
 今、イギリスは、かつての“イギリス病”から見事に再生して活力に溢れています。その源泉の一つになったのは、ロンドンの金融情報センターであるシティの強化でした。
 約20年前、当時のサッチャー首相は、21世紀型あるいはグローバリゼーションという時代に向け、大西洋光ファイバー大幹線を使って、ニューヨークのウォール街とロンドンのシティを直結しました。ドックランズには「エンタープライズゾーン」を仕掛けて、世界の主な金融企業が参入する際には、10年間は事業税を免除するという衝撃的な仕組みを打ち出して、一気にファイナンシャルセンターを築き上げました。その後、ロンドンはユーロの金融中枢という地位を得て、向こう100年は維持されるほどのステイタスさえ確立しています。
 経済を立て直すうえで、イギリスは物凄く勉強をしました。そして、アメリカのシリコンバレーの成功に倣い、どうしたらロンドンの経済再生とリンクした都市再生ができるかを考えたのです。
 そして、世界中からIT関連のスキルに秀でた人材が集まってくるような都市再生を目指して成功しました。若者に好まれて、しかも24時間活動できる体制を支えられるように、都心部に10万戸の集合住宅を一気につくりました。職場の近くに住宅があり、遊び場もある。住宅はまだ増える勢いで、レストランやディスコは開店ラッシュが続いています。
 少し前にニューズウィーク誌が、21世紀の都市の強さの指標は、「職」、「住」、「遊」が、徒歩や自転車で移動できる圏内にどれだけ高密度に集結しているかにあるといった記事を掲載していましたが、まさにロンドンはそういう都市をつくったわけです。
 このことが意味するのは、「国家的な戦略として都市開発をうまくやれば、世界の経済の基幹システムをつくることができる」ということで、ここが都市再生で非常に重要な視点だと思います。
外資が集まるプロジェクトと 迅速に進める仕組みの改革を
 ロンドンやニューヨーク、ベルリンといった国際的大都市は、都市の再開発をする際、自国の資金が3、外資が7といった割合で、世界市場を流れている資金を利用してきました。ですから、国内経済が低迷してるから都市の再開発ができないという考え方はあり得ません。
 ただし、外資を得るためには、「このプロジェクトは買いだ」と判断させるような、魅力的なシナリオを国家戦略として打ち出す必要があります。都市再生を、国の経済戦略と連動させることを強く認識しなければいけません。
 加えて、外資を使って都市再開発をする場合に不可欠なのは、プロジェクトを迅速に進めることです。アジアでは、中国の上海が物凄い勢いで再開発を進めていて、ここ5、6年で超高層建築を2000棟も立ち上げました。日本は30年かけて200棟なのに、5年でその10倍を立ち上げてしまったのです。
 上海では「二免三減」といって、二年間は免税、三年間は減税という措置をとって開発を進めてきました。そういうことをすると、プロジェクトというのは一気に進むのです。
 では東京はどうなのか。私たちは今、東京・豊洲のあるエリアで、開発特区に指定した都市再生プロジェクトを提案しています。また、環状七号線を軸とする幅1qのゾーンを特別再開発ゾーンとして、10年間で一気に開発する「環七セイフティー・コリドー」も提案しています。この地域は木造密集地域で、災害発生時に大きな被害が出るリスクを含んでいるので、その環境の改善を兼ねて一気に都市の再整備を進めようという内容を提案しています。
 長引く経済の低迷で、今の日本は“縮み思考”になっていますが、早急に着手すべき課題は山積しています。アジアでも、上海や香港などの国際的都市が、国家的な経済戦略のもと、物凄い勢いで都市の再開発を進めていますから、日本でもそういったことを心がけてほしいと思います。
講演3 原氏
最先端のテクノロジーを活用し 自然と調和した持続可能な都市を
原 広司 建築家 東京大学名誉教授
 私は長い間世界の集落を研究してきましたが、長く維持されてきた集落の形態には環境時代の建築を考える原理があると考えています。
 イラクのチグリス・ユーフラテス川が合流する辺りの沼沢地に一つの集落があります。ここでは、直径20mほどの人工の島を築いて、その上で2、3年ごとにアシの住居をつくり直しながら人々は生活をしています。この形態は、約5000年にわたって続けられているようで、世界で最も古い集落だと思われます。
 同じイラクには、砂漠のオアシスにも古くからの集落があります。平地にあるこうした集落には雨が降りません。そこで、山に降る雨を地下トンネルで引いてきて人工のオアシスをつくり、そこで1000年以上にわたって農業を営みながら生活しているわけです。
 アルジェリアのサハラ砂漠に近い地域には、いくつかの似た集落があります。どの集落も、一見雑然としていますが、実はある秩序のもとで都市計画的にデザインされています。いずれの集落も近くに水域がありますが、生産力のある水域に住居は築いていません。少し離れた不毛な土地に住居をつくり、水域を守るという共通の原理を持っています。
 こうして見ると、集落とは、よく言われるような自然発生的なものではなく、非常に高度な計画性のもとに、その時代における最高のテクノロジーを用いてつくられていることが分かります。しかもそれが自然と調和しているために、長く持続されてきたわけです。そういう認識のもとで、集落を見ることが重要なのではないでしょうか。
食糧問題の深刻化に対して 居住域を限定した高密度化を
 長い間、地球にはせいぜい2、3億人の人間が、ほぼ一定の人口密度で生きてきました。その人口が急増し始めたのは産業革命以降です。20世紀の100年だけでも地球の人口は4倍に増え、最近の予測では2050年には90億人に達するとも言われています。
 そして、人口の増加とともに深刻化するのが世界の食料問題です。世界の穀物の一人当たりの作付け面積は、著しい減少傾向にあります。米国政府の環境白書は、東南アジアの農業事情に警鐘を鳴らしています。世界全体を見渡しても、これほど自然に恵まれた耕地をもつ地域はないのに、東南アジアの国々では耕地が失われつつあるからです。農業国であるアメリカや中国も、水の問題などで生産力が落ちてきています。人口は増えるのに耕地が減れば、世界的に食料の調達が厳しさを増すことになります。
 では、食料の調達が難しくなる時代に、都市というものをどう考えればいいのか。
 日本を始め、東南アジアではこれまでスプロール型に広がる都市づくりをしてきましたが、そのことに疑問が湧いてきます。問題なのは、都市をつくるために農地や森林が消えていく点にあります。東京圏では、市街地が毎年1100q2も拡大しています。世界の各都市が同じような開発を進めたら、地球があっという間に破綻するのは明らかです。
 そこで、私は、「都市の居住域というものを限定して、必要があれば都市を再開発するべきだ」と言い続けているわけです。地域を限定して都市を再構築して、高密度に人々が住む都市を空中に展開し、それ以外の場所は山村をつくったり、あるいは残したりするべきできないかと考えているのです。
 その再開発の手法として、仮に500m3の立体の中で、どんな都市が築けるのかを検討してみると、意外といろいろなことができるんですね。そこに10万人が住めるかもしれないのです。
 高密度な都市においては、「空気の設計」が重要になってきます。私が設計した自宅や京都駅ビルなどでは、まず大きなボリュームの建築を“覆い”としてつくり、巨大な自然の空気の空間をつくり出しました。そして、その中にヒューマンスケールの都市をいくつも入れていくといった構成になっています。
 こうした基本的な認識を持つことが、その時代の最高のテクノロジーを使い、多くの人たちが対等に生きていけるような都市を再構築するうえで重要なのではないかと思います。
講演4 本橋氏
LCCで有利な高耐久性塗料 バランスのとれた仕様選びを
本橋 健司 独立行政法人 建築研究所 材料研究グループ 上席研究員
 建築塗装には、耐久性の向上と環境対応という二つの課題があります。
 まず、耐久性についてですが、すでにフッ素樹脂やシリコン樹脂といった高耐久性塗料が出てきて、実際の建築で使われています。これらの塗料は、促進耐候性試験の結果からも、従来の溶剤型アクリル樹脂塗料と比べて、表面が劣化しないことが明らかでした。
 高耐久性塗料というのは、雨や紫外線を直接受ける上塗り塗料として使われます。では、実際の塗装仕様を考えるとき、上塗りだけを高耐久性塗料にすれば、塗装全体の耐久性は上がるのかというと、そうではありません。
 塗装には、上塗り、中塗り、下塗りがありますが、塗膜の耐久性に及ぼす各種要因で一番大きいのは、実は素地調整なのです。特に防錆塗装では素地調整がいい加減だと、いくら上塗りにグレードの高い塗料を使っても、塗装本来の役割は十分に得られません。上塗りにフッ素樹脂塗料を使っても、中塗り・下塗りがグレードの低い並防食では、例えば塗膜にキズが付くと、早期に錆が発生します。ですから、塗装仕様というのは、素地から上塗りまでトータルにバランスのとれたものを適切に組むことが、塗装の耐久性を高める大前提になるわけです。
 ところで、高耐久性塗料は、従来の塗料よりもコストがかかるという問題があります。採用するためには、当然、設計者や施主の理解が欠かせません。そこで意味を持ってくるのが、ライフサイクルコストです。耐久性と塗り替え回数をもとに、材工費について60年間のライフサイクルコストを比較すると、明らかに高耐久性塗料を使ったほうが安くなります。これは材工費だけですから、足場代などを含めた実際のライフサイクルコストは、さらに抑えられると言えます。
発生炭化水素の3割は塗料溶剤から 水糸塗料への転換は必至
 次に、環境対応型塗料の話ですが、従来、高耐久性塗料は「溶剤型」が主流でした。ところが、この溶剤が、地球の大気環境に大きな影響を与えています。
 人間の活動によって発生する炭化水素の60%は工場や事業所から出ていると言われ、その54%は塗料用の有機溶剤です。つまり、人間の活動によって発生する炭化水素の30%は有機溶剤なんですね。建築の場合、屋外で塗装をすることが多いので、相当量を大気中に放出していることになります。
 そこで、技術開発が盛んに進んでいるのが、水系塗料です。塗料が大気に与える影響を抑えるためには、有機溶剤の使用量を減らさなければなりません。最終的には、有機溶剤を水に置換するという方向で、どうしても無理な場合に限って、環境への影響が小さい「弱溶剤型」を使うという形になるでしょう。
 もともと有機溶剤がこれほど使われるようになったのは、水系塗料の耐久性や使い勝手が悪かったからです。ということは、有機溶剤から水系塗料に転換しても、有機溶剤に劣らない性能を持った塗料であることが不可欠です。
 すでに、そうした開発は活発に進められて、最近では溶剤型と同じような性能を持つ架橋型エマルションや高耐久型エマルションといった水系塗料が出てきました。そして、圧倒的に多くの人たちが、これからの塗料は、溶剤型から水系に転換すると見ています。
 建築研究所でも、こうした水系塗料に関する性能データをすでに集積しています。また、水系塗料への転換で、大気中に放散される溶剤の低減量に関する報告書も作成しました。ただ、こうした活動だけでは、実際の普及にはつながらないので、国土交通省や建築学会の塗装仕様書にスペックインするたたき台づくりを、今進めているところです。
 環境の改善に向けて、さまざまな施策などが出され、各種の建築材料もそれに合わせてつくられるようになっています。私たちとしては、建築全体としての環境負荷を低減することを目指して、そういう技術が普及するために必要な標準的な仕様づくりに向けた技術開発などを今後も続けていきます。